その4「いい男 野田君」

僕がマネージャーで野田君が俳優なら僕はハリウッドに旧日本陸軍の鬼軍曹かメキシコの山賊にこれ以上ない個性的な俳優がいる、と売り込むだろう。残念ながら彼は俳優ではなくフリーライターだ。そして彼の最近の著書「背番号13青春録」に詳しいように高校時代甲子園に出場した経験のある元高校球児でもある。
彼がグロスのカウンターにやってくると僕は楽しい。野田君の話は高校野球、大学生の頃の怪しげで危ないアルバイトの話、詳しい事情は知らないがかつて住んでいたエルサルバドルの話、最近の著作の話などえらく世の中の平均値から逸脱している。彼のグロスでの佇まい、語り方、その内容、どれもひどくねじれている。基準線がわからないほど斜めである。でも何故か真っ直ぐな男である印象を与える。それらがもしすべて計算された振る舞いならとんでもない詐欺師だ。だってそんなにおいしい役どころはないもの。僕はそこまで彼を買いかぶっていない。きっとあれは全部「地」なのだ。余裕なんて邪魔なモノは野田君は持ち合わせていないに違いない。彼は何故か、いつのまにか、いつからか結構重いものを背負い込んでしまった。意志とは関係なく気がついたら下ろせなくなっていたのかもしれないし、よし!、と一声唸って担ぎ上げたのかも知れないがとにかく力のいる人生を送っているみたいだ。
断っておくがここで野田明宏論を展開する気はない。僕はただ彼への共感をはっきりと表明したいだけなのだ。野田君がいったい何を考え、何を引き受けて生きているのかは彼の文章から感じていただきたい。「背番号13青春録」(吉備人出版)、それにこの三月から毎週火曜日に中国新聞に連載している彼のエッセイを是非読んでいただきたい。もし、もしも、それらを読んであなたが何も感じないとしたら僕はあなたとはもうお付き合いしたくない。それを言いたいだけなのだ。恥を忍んで告白するが僕は彼の文章を読んで何度か不覚にも泣いてしまった。
でも、もしこの文章を野田君本人が読んだら、「けっ!」とか「へっ!」とか言ってシュールなほど思い切り斜めになるに違いない。だって、彼は僕をどうしても許せない詐欺師だと信じて疑わないようなのだ。

 

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