その3・いざグアテマラへ

 
オレはチェックカウンターへ向かった。もう、時間は明日になろうとしている。オレが搭乗するAVIATECA(アビアテカ)は、グアテマラ唯一の国際線を飛ばす航空会社。
カウンター前は、人・人・人。そして、彼等の横には段ボール詰めされた土産の山々。
凱旋帰国そのものだ。出国する搭乗者家族も含め、カウンター前はお祭り騒ぎ。オレは黙考する。
 「ワシはこの便に乗れるんかのお? ぎょうさんおるでホンマ!」
 できないわけがない。ロスアンゼルスモグアテマラ間は正規のチケットを持参しているのだから。
 結局、搭乗できた。いよいよグアテマラへ向けてGO・GO・GO 。
 でだ。このままグアテマラに無事到着しました、では面白くも可笑しくもない。時空間に誤差が生じてしまうのだけれど、モハーダ(中米で使用される密入国の隠語)について真摯にノンフィクションしたい。この作文を真摯に真正面から熟読していらっしゃる方もいるのだと、ミスター川本から恐い顔して指導が入ったのですよ。そりゃあ、原稿料支払っている依頼主だから強気にもなれるわなあホンマ!?
 とはいえ、今回のオレは本来のオレに戻ってハングリーな視線で捉えたい。
 モハーダなる隠語は、隠語なのだけれど中米では日常語と化している。オレが聞いたモハーダの語源は、スペイン語に動詞でモハールというのがあって、一般的には“濡れる”という意味で使用されることが多い。と書きつつ、確認のため、もう5年以上は開いていない西日辞典を取り出してきた。間違いない。
 だからといって、なんで“濡れる”が密入国の隠語となったかの理由は幾つか聞かされたのだけれど、本命は、メキシコ合衆国からアメリカ合衆国に密入国するとき、リオグランデ? だったか、川を渡らなければならず、川を渡る=背中まで濡れるでモハーダになったというのが最有力視されている。
 エッヘン!! 初耳でしょう?
 さてと。アメリカ合衆国(以後は米国)というのは、外国人の入国に関してはスコブル厳しい姿勢で臨むのに、いざ出国となるとなんと寛大な国なのか。オレはニューヨークとロスアンゼルスの空港から7、8回離発着しているが、出国時にパスポートチェックを求められた記憶がない。平成16年・天下大乱下の今ならいざ知らず、オレがウロチョロしていた二昔前(最近の一昔は10年もないんよ)に近い頃はエアーチケットだけで出国できた。この頃から日本人旅行者に対してビザ免除になったのではないかな?
 話しがスコーーンと5年ほど進む。オレはグアテマラの大地に溶け込んでいた。日本とグアテマラを何度か往復し、結局、オレの友人(グアテマラ人)の家に一ヶ月3食付きで1万円という値で住み込んでしまっていた。都合が良かったのは、この家の生業がカンティナと呼ばれるイッパイ飲み屋だったことだ。いろんな人間に出会えた。
 で、ここからが本筋。カンティナにオレの友人の友人がやってきた。昨日、ロスアンゼルスから帰国したばかりだと言う。オレは当然、興味を持った。どう想像しても、米国が彼に労働ビザなど発給するわけがないのだ。グアテマラでは無職なんだから。
 ここからは、彼の独白(スペイン語から岡山弁に変換しておきます)。
 「アホか? アメリカ大使館やこう行くわけねえがな。モハーダじゃ。グアテマラからメキシコやこう、ハッキリ言うて国境やこうねえみてえなもんじゃがな。メキシコ入国やこう朝飯前じゃ。せえで、メキシコとアメリカの国境まで行ってみい。なんぼでもコヨーテ(密入国斡旋人)がおらあ。そりゃあ、そこで50ドル(ハッキリとは失念)そこらは渡すけどのお、キッチリ送ってくれるでホンマ。まあ、間違いはねえ。アメリカへ入ってしもうたら、ロスでもマイアミでも行きゃあえんじゃ。なんぼでも仕事はあるで。建築現場やウェイター。オレンジ収穫したり。キチイ仕事ばあじゃけど、カネ貯めるんじゃったらアメリカに行かんといけん。あと一ヶ月したらまた行くで。仕事、紹介したろうか? パスポート? そんなもん、持っとるわけねえがな」
 オレは半信半疑だった。確かに、米国にモハーダするわけだからパスポートはいらない。しかし、こいつはロスからグアテマラまで飛行機で帰国している。米国からの出国は問題ない。エアーチケットがあるから。とはいえ、グアテマラ帰国時。パスポートチェックはないのか? やつが言うにはセデュラというグアテマラ国が発行した国内で誰もが持っている身分証明書があれば入国できるとのこと。
 グアテマラの隣国エルサルバドルからグアテマラに飛行機で帰る機会があった。で、米国からの帰国便のやつらと同タイムにパスポートコントロールに並んでみた。そして尋ねた。
 「スミマセン。おたくさん、パスポートあります?」
 どこから見ても、モハーダ帰国者。
 「あるわけねえがな。これだけ。なんで?」
 彼は、セデュラを審査官に見せただけで入国、帰国を果たした。やはり事実だった。
 オレはもちろん、パスポートを審査官に見せ、入国スタンプを押してもらい入国するのだけれど。
 そうそう。米国からの出国時、出国スタンプ押された人いますか?
 とか言っているうちに、グアテマラに着いてしまいました。
 早朝の5時。標高の高いグアテマラシティーの朝は清々しい。

グアテマラ空港に出迎えに来ていた
先住民の女性たち

YOI GORYOKOO WO
グアテマラ空港

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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